不純な唇物語

健二は確信していた。


春日部駅から徒歩で10分程度の場所にある某居酒屋チェーン店の入り口の横にある灰皿の前で健二は煙草を吸い込んではすぐに煙を吐き、また吸い込んでは煙を吐くというのを繰り返していた。
緊張しているのだろう。


健二の見た目はお世辞にもお洒落と言える格好ではない。
そういうファッションや髪型などその辺の自分を着飾る事に関しては無頓着な男である。
ただ、健二はお洒落ではないが顔は猿顔だがキリッとしていて顔だけ見れば男前だ。

何より健二は女性から圧倒的にモテる。

27歳になる立派な大人が洋服1つにも気を使えないが彼の回りには常に女性の影がある。

何が武器かと言うと聞き上手なのである。
聞き上手な男はモテる。

男という生き物はやはりどうあがいても女性からモテたい気持ちがあるから、話し上手になりたがる。
いちいち話にオチをつけて話したがる。
面白いと思われたいからだろう。
筆者も同じ。

逆に女性の場合、話にオチがない。
日常であった出来事を話しているだけなのだから当たり前と言えば当たり前である。
ただ、この退屈な話をどう上手に聞いてあげられるかを健二は自然と身につけていた。

聞き上手な男はモテる。



待ち合わせの22時から20分が過ぎ健二が灰皿に3本目の煙草を押し付け消していた時、20m先の方から1人の女性が歩いて来ていた。



美希だ。

健二は視力が凄く悪く裸眼だと0.01程度しかない。
コンタクトを付けてはいるが20m先を歩いてる人の顔までは見えない。
目を細めその女性を凝視する健二。

まだその女性が美希である事には気づいていない。

目を細めている健二を見て薄ら笑いを浮かべながら徐々に近づいてくる美希。


「久しぶり。てかそんな目細めて見られると怖いよ。」
美希が声を掛ける。

「おう。ごめんごめん。やっぱりコンタクト付けてても夜だと何も見えないや。」

そこで二言三言会話を交わし2人は辺りをキョロキョロ確認しながら居酒屋の中へ入っていった。


健二と美希が知り合ったのは今日から約3か月前、7月行った健二の地元の友人達が集まったバーベキューの時だった。
美希は春日部から電車で20分程度の久喜という町に住んでいて健二達とは一切面識も無かったのだが、そのバーベキューに参加している中の健二の友人の奥さんと美希が地元が同じで昔からの親友だった事もあり誘われて参加したのだ。

そしてそのバーベキューの時に健二が美希に猛アタックを仕掛けて連絡先を聞き出した。
美希は美希で健二に対しては“ちょっとチャラそうだけど面白いし顔も結構タイプ”という印象で特に何も考えず連絡先を教えた。


男女関係の馴れ初めとしてよくよくありがちなもので特別珍しくもなんともない。

だが2人の間には1つ障害があった。


美希は結婚していて子供も2人いるのだ。
その事実はバーベキューの時に既に健二は友人から聞いて知っていた。
美希も連絡先を交換する段階でその事は健二に伝えていた。


だが健二はそれでも美希にメールを送り続け2人で会える機会を伺っていた。
そしてバーベキューから3か月経ったちょうどこの日、ここしかないタイミング、旦那が1週間程出張で家を空ける中の唯一の土曜日、同窓会があるからと子供2人を実家に預け健二と美希は再会を果たした。

美希はスリムな体型をしていてモデルのようだ。
子供2人を産んでいるようには到底見えない。
目もパッチリしていて、人妻と言えど近寄ってくる男は多いだろう。

この密会の事について美希は、バーベキューを誘ってきた昔からの親友にも誰にも一切口外していない。
もしこんな事実が知られたら。。。



そう、美希はスリルを求めていた。22歳の時に中学の同級生と結婚してから専業主婦として5年。
毎日が昨日の繰り返し。だが歳を重ねる毎に自分が少しずつだが肌、体、髪、
衰えていくのがわかる。
これから10年20年先を想像した時に見える自分の姿が怖かった。

まだ若い自分を色んな人に見て欲しい。味わって欲しい。
そんな不純だとわかっているが女としての性が男を求めてしまう。

この夜のように何処かで知り合った男と飲んだりして体の関係を持つ事は結婚してから1人や2人では無かった。
スリルを求める事で自分を保つ美希。
でも素性は知られたくない。
その瞬間が来るまでは。


薄暗い店内。
2人は半個室の様な席に通される。

週末ではあるが春日部ともなると店によっては席がまばらにしか埋まらない事は珍しくない。
その日2人が入った店は幸か不幸か店内はガラガラ。

ビールで乾杯をする。

突き出しで出された切り干し大根をちょびちょびとつまみながら健二が話を振る。
聞き上手な男は裏を返せば会話を振ってあげる事も上手い。

美希の子供の話や旦那の事、美希のパーソナルを嫌味無く引き出す。
頻繁に会うことが難しい人妻が相手。
お互いにそれは理解している。

それを理解しているが故なのか会話の歯車もよく噛み合う。
2人が見ている目的地は同じなのだろう。

スリルを求めやってきた美希。

そして健二。




実は健二、この日、この夜にとある大事な指令を遂行しなければならなかったのだ。
そして指令を遂行しなければならないその相手はこの目の前で吞気に4杯目のビールを飲んでいる美希だった。




2人は飲み続ける。

会話の内容は美希の夜の夫婦生活の話に変わっていた。

お酒の力もあり少しずつ美希が被っていた仮面が取れ始める。
ブナシメジをつまみながら夫との夫婦生活の不満を漏らす。


普段家ではお酒を飲むことが少ない美希は2時間もしないうちに酔っ払っていた。
その頃には最初向かい合って座っていた席も健二が呼び寄せ隣同士になって体を密着させながらの状態になっていた。


そして健二は知っていた。
この隣に座っている美希が本当はドスケベで淫ら乱れな女だという事を。

全ては指令を遂行するため。





猫なで声で健二の肩に体を傾ける美希。
ブナシメジをつまむ。




健二はズボンのチャックを下ろしながら冗談交じりに
「僕の松茸食べる?」
と聞く。

軽い下ネタのボディーブローのつもりの一言だったが美希は即答で
「食べるぅ。」
と健二のから力強く生えている松茸を一口で頬張った。

健二はその美希の姿に驚いたがすぐに冷静さを取り戻し
「お行儀の悪い食べ方だねぇ。」
と耳元で囁いた。

そしてさらに
「僕にも美希の赤貝食べさせてよ。」

恥ずかしそうに頷く美希。

「じゃあ僕の部屋に行こう。今夜は山の幸に海の幸、盛り沢山だな。」
そう言って素早く会計を済ませて2人は健二の住むマンションへ向かった。






続く。


※この物語はフィクションとノンフィクションの狭間の話です。
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by kuchibuil4951 | 2015-04-14 12:31